第七回 TSP小技
(2004.3.10)

第一回から三回まで、主に同期加算とTSPを使ったインパルス応答の取得方法を説明しました。
このコラムでは、これらのテクニックを使っても、なおもシブトク残るノイズを 消し去るための小技を紹介したいと思います。
なお、ここで紹介するテクニックを実際に行うための環境として、 畳み込みに対応している波形編集ソフトであることはもとより、、
時間・振幅・周波数を同一の画面でプロットできる機能(スペクトラム表示機能)を持つ 波形編集ソフトが必要です。
でぶっちゃけCool Edit Pro2.0(改めAdobe Audition1.0)では、この機能が付いているため、 やはりこのソフトの操作を中心にして説明させて頂きます。

テクニック1 巡回畳み込み
これは、TSPとTSPとの時間の間隔を空けないで、逆TSPしてしまう方法です正確には何もTSPに限った話ではありませんが、、
TSPで採取した音声を逆TSPで畳み込みという事は、横に倒れたインパルス応答をまた垂直に立てるというイメージです。よね??
なので、2つ同じTSP応答が並んでいたとして、倒れてた所にあった周波数成分は、後ろにずれているので、 TSP自体の長さがインパルス応答の長さを超えていれさえすれば、その成分は、最初のTSP応答の余韻部分にも影響を与えないのです。
これはもう図に書くしかありません(汗)↓

念のため説明しますと、横軸が時間で、縦軸が周波数、で、色の濃いところ程、振幅が大きいことを表します。(かなりアバウトな図ですが、、)
図のようにTSPのスペクトルがまだ存在する時間帯でも、逆TSPによって後ろにずれてしまうため、 わざわざTSPとTSPに隙間を作らなくても、正確なインパルス応答が採取できてしまうという寸法です。
このテクニックを使えば、時間の節約になりますので、その分同期加算の回数を増やしたりもできる分けです。
小技というより広く使われている当たり前のテクニックというか定石(?)です。。。(汗)

やり方としては、余韻として必要な長さを超える長さのTSPを用意して、それを時間の隙間を空けずにループ再生します。
レートが44.1KHzの時、1秒の長さの余韻を持つインパルス応答を採取しようとした場合は、44100サンプルよりも大きい、65536サンプル長のTSPを用います。
最後は1つのブロックになるまで、同期加算をするのですが、 TSPは普通は2のn乗のサンプル数を持つので、 同期加算する場合は、10000とか20000とか割のいい数字で切り貼りはできなくなります。
65536(2の16乗)とか、32768(2の15乗)といった長さの倍数で区切って、MIXする必要があります。 なのでExcelなんかで、TSPの長さを元にした倍数表を作っておくと便利です。
そして、1つのブロックにしたら、今度はそれをコピー&ペーストで2つ並べます。 その後、逆TSPをかけて、インパルス応答を復元します。
ブロック1つだけで逆TSPをかけると、復元しようとしているインパルス応答のお尻か、もしくは頭が、波形の外にはみ出してしまいます。
インパルス応答を復元したら、余分な無音部分を取り除きます。

テクニック2 Bend-UpするTSPで歪みをアタック前に
TSPは、耳で聞いた感じは、正弦波がBend-UpもしくはBend-Downしている音に聞こえます。 実はTSPを、時分割のFFTなんかで調べてもそのような波形として表示されます。
で、アンプだろうが、スピーカーだろうが、マイクだろうが歪んでいるので、 TSPに対する応答には歪み成分、すなわち倍音が乗る事になります。 それを図に描くとこんな感じです。

ここで、Bend-UpするTSPの応答を録音して、逆TSP(つまりBend-DownするTSP)で畳み込みした場合と、 反対にBend-DownするTSPで録音する場合とで、結果のイメージを見比べてみます。

この図で判るとおり、Bend-DownするTSPで録音した場合、 歪み成分がインパルス応答の余韻部分に重なってしまっています。
それに対し、Bend-UpするTSPで録音した場合は、歪み成分が アタックの前にずれ込んでいるため、アタック後の波形には、影響が見られません。
この事から、録音に用いるTSPの種類を選べる場合は、Bend-UpするTSPを使って録音し、 アタック前の余分な成分を削除してしまえば善きに計らえるものかと思われます。
但し、この方法にもデメリットは存在します。 インパルス応答の余韻が長い場合は、余韻の最後の方の音と、歪み成分が重なりますし、 低音域では、時間的な隙間が小さいため、歪み成分を十分に取り除くことができません。 また、デジタル系の歪みが混入した場合は、エイリアスの影響で、色々な場所に歪み成分が発生してしまいます。 余韻成分との混変調歪みというのもあります。
なので、100%ではないのですが、選択肢としては、こちらの方が有利かなと思われるわけです。

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